2011年08月01日

備後南部の金融機関の設立と変遷について(松永編)

備陽史探訪:161号」より

岡田 宏一郎

松永実業銀行

(「ふるさと今津」より転載)

6月に尾道商業会議所記念館で「近世尾道諸品会社の成立と展開」についての講演会が行われた。講師は広島大学博士課程在学中の下向紀彦氏で「瀬戸内海の経済金融」を研究している新進気鋭の若き学徒である。

社会経済史や近世・近代の社会史について関心を持っているため、興味深いテーマに惹かれ期待を持って参加した。

内容は、幕末期における「諸品会所」についてであり、その貸付業務は「領内商品作物の領外販売、領外品の瀬戸内販売の動きに対応した他所船、他所客への貸付に対応した金融業務」であった。この金融活動と対応について、資料を活用した具体的な藩の政策や町年寄りなど豪商の対応などについて講演が展開されていった。話は比較的理解しやすい内容でもっと知りたいと思った。

この講演に刺激されたので、備後南部の地場銀行の設立と変遷について紹介してみます。
(今回は松永地域だけ、次回は福山編を考えている)

明治五年「産業振興のため円滑な資金供給と貨幣制度の改革を進めるため」近代的な銀行設立が図られ「国立銀行条例」が公布されて「第一国立銀行」(国立の名前を冠しているが株式会社組織である)設立された。広島県で最初の銀行は「第六十六国立銀行」で、御調郡尾道町久保町に設立された。資本金は十八万円であり、明治十二年に営業した広島の「第百四十六国立銀行」の資本金は八万円とその半分以下であり、いかに明治初期の尾道経済が隆盛を極めていたかがよくわかる。

松永では明治十四年、沼隈郡松永村に「穀蕃合資会社」が資本金六千四百五十円で設立された。この会社は「銀行類似会社」である。設立代表者は石井四郎三郎で石井家は松永随一の有力な資産家であり、松永の地場産業である「塩・花筵」などの問屋や金穀貸付も行っていた。当初、銀行の名称は国立銀行以外使用できなかったために、このような名称であった。

明治二十九年に普通銀行としての認可を受けて、資本金二万八千二百三十五円で発足した。貸出金として地所・花筵・い草・撚糸・株券などを担保として地場産業への融資に力を入れていた。地元の信用も厚く預金も順調に伸びていたが、大正三年に石井一族が経営していた亜鉛の精錬事業が失敗し、これに多額の融資をしていた穀蕃合資会社は資金回収が不能となり取り付けを受け資金不足のためについに営業を休止した。

結局、不良債権二十四万三千円余りは石井家の財産の処分で済まし、石井家は破産状態となった。その後、穀蕃合資会社は大正九年に高知商業銀行に吸収され消滅した。

明治二十五年には、塩・畳表・下駄の生産量の増大を背景に荷為替の需用増加の要請に応えるため、銀行類似会社として深安郡福山町の神野利右衛門、沼隈郡松永村小川喜三次、岡本儀一郎らによって「松永為替株式会社」が設立された。設立当初の資本金は一万五千円であった。
「銀行条例」が明治二十七年に改正されると、これに応じて明治二十九年に商号を「松永銀行」と商号変更し、資本金を六万円に増やした。明治三十五年には不況の影響を受けて一万四千円余りの欠損を出しているが業績は回復してきている。

明治四十五年には、一層の飛躍を図るために貯蓄業務を兼営する普通銀行の「松永実業銀行」を設立して、松永銀行の債権・債務一切を新銀行の松永実業銀行に譲渡して解散した。松永実業銀行の資本金は五十万円と大幅に増やしている。

新役員には石井保次郎など石井一族などが松永銀行の役員を占め、沼隈郡長の阿武信一が役員に就任しているのが注目される。

大正八年には頭取に沼隈郡本郷村で醤油醸造を営んでいて代々庄屋を務め、溜池など農業振興に力を注いだ佐藤俊造が就任している。

第一次世界大戦の好況で大正十年には預金高が二百万円と大きく増大し、大正十三年には重厚で風格のある本店を新築落成している。だが、その後は伸び悩み成長が見込まれないことから、昭和二年岡山市の「第一合同銀行」と合併して解散した。本店と千年支店は第一合同銀行の松永支店と千年支店となった。昭和五年、岡山県津山市の山陽銀行と合併した第一合同銀行は「中国銀行」と商号を変え、中国銀行松永支店と松永支店今津出張所として開設された。今津出張所の場所は吾妻橋の近くの旧道の町並みにあった。昭和二十五年には今津支店に昇格したが、昭和四十六年には廃止となった。

松永実業銀行の本店は松永駅前にあり、中国銀行松永支店として営業していたが、平成八年に松永北支店と店名を変更したが、平成十六年に廃止された。

重厚で歴史を感じさせていた元松永実業銀行の建物は壊され、現在その跡地は福山西病院になっている。
(引用及び参考資料 「ふるさとの銀行物語 備後編」「松永町誌」「ふるさと今津」)

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